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1 Aug
, 2002
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Nr.020 村雀


 観光地に行けば名物がある。
土地の特産物を原料に使ったり、歴史的な“いわれ”があったりして、買う側としては、持ち帰ることのできる旅の楽しみだ。

しかし、よく言われるのが、名物にうまいもの無し…。確かに、私自身、美味しい名物に出くわした事は少ない。しかし倉敷には、数少ない美味しさが存在していると思う。

その名は村雀(むらすずめ)。
人気のあるお菓子なので、倉敷の多くの和菓子屋で買う事が出来る。
幼い頃から馴染んだお菓子ではあるが、私は、そのスタイルから考えて、比較的新しいものではないか…と想像していた。

なぜなら、一昔前に流行ったクレープを半分に折ってアンを包んだ形だからである。
しかしその歴史の始まりは、明治元年まで遡るから、ゆうに百年を越す時を乗り切っているのである。

しかも、この菓子、倉敷という土地の歴史を織り込んでいる。
その上品なアンのように包まれた、倉敷人も余り知らないストーリーを解き明かしてみたい。

まず、倉敷には、「豊年踊り」というものがあったと伝えらえている。
これは、2つの意味があった。
1つ目は、昔なら当然の、豊作を祈るのである。
日本の一般的な場所ならば、ほとんどの人口が農民の為、お米がたくさんできる事を純粋に祈る。

米の集散地であった倉敷は、その豊作によって、農民達が潤うだけでなく、集まる米が多くなる。
さらに人夫達も仕事が多くなり、賃金が増える。
商人も流通が増えて儲かり、武士もそれなりに身入りが増える。

農業単一の余所とは少々違うかも知れないが、とにかく、豊作を祈った。これが一つ目の豊年踊りの意味である。

2つ目は、倉敷へ集められた米は、江戸表などへ、幕府御用船に積まれて出港する。
船を送り出す時に、それなりの儀礼が必要となり、そこで踊ったものである。

いずれの目的にせよその踊りには、農民、人夫、商人、武士など、すべての民が参加した。
農民や町人は別にして、武士がそんな踊りに加わるなど、当時としては、考えられない事であり、そんな身分を越えた活気があったのが、倉敷という街だったのであろう。

それぞれの身分階層に、微妙な思惑があるにせよ、願いは、豊かな米の実り…という点で一致しており、まさに倉敷の街全体が、この踊りを創り上げたと言えるだろう。

結構激しい踊りであったとも言われており、もしかしたら、阿波踊りにも負けないものだったかも知れない。
この踊りが現在に伝えられていない事を非常に残念に思う。

しかしながら身分制度の厳しかった昔、確かに武士は参加したのだが、やはり立場はあるし、踊りが激しかったので、武士達は顔を見られるのを嫌がった。

そこで、藺草(いぐさ)で作った編み笠を被って参加した。
編み笠と言えば、時代劇などで武士が被っているタイプのものが頭に浮かぶが、それほど整ったものではない。
藺草を片方で束ね、もう一方を広げただけ…のような、粗末なものだった。

これを被って踊る武士がいれば、武士の振りをしてみたい町人がそれを真似て編み笠を被った。
武士も真似られるのを最初は嫌がっていたものの、羽目を外して踊る時、町人の振りができる…とばかり、
文句を言わなくなった。

多くの人達がこの編み笠を被って、我を忘れて踊る姿を御想像頂けるだろうか。
それはまさに稲穂に群がる、羽を広げた雀…
ということで、「群がる雀」…から村雀と呼ぶようになったのである。

さて、江戸の終わり頃、倉敷には、林孚一という人物が居た。
天領という幕府の直轄地ながら、筋金入りの勤王家であり、長州などの維新の志士と深い交流があった。
教科書にこそ載っていないが、明治という時代を創った立て役者の一人だと私は信じている。

この林孚一が、明治に時代が変わったその元年、ある和菓子屋の創った菓子を見て驚いた。
今までにない、独創的なスタイルである。

自由を愛する林孚一は、それを見て、豊年踊りの編み笠を連想し、すぐさま「村雀」という名を思い浮かべたのである。

和菓子の作者である、吉本代吉は、この命名を喜び、以来、この独創的な菓子は、むらすずめと呼ばれるようになったのである。

饅頭がお決まりのスタイルしかない時代に産み出された独創的な素材と形状。
包み込む懐には、甘さだけではなく熱い思いと歴史。
越えたのは身分と職業、そして百年を以上の時の流れ。
みやげもの…という枠を越えた、倉敷の象徴の一つなのである。







by アルケミー・えんしゅう


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