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1 Aug, 2002
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Nr.019 鶴形山隋道
小学校の頃通った、このトンネルの内壁は、いつもヌメヌメとしていた。山の持つ水気が下へ降りて来るからか、雫が滴って、ぺったりと濡れているだけでないように思えた。もしかしたら、山という生命体の内臓を、覗き見しているような気分だったのかも知れない。
苔むした陰気な場所だけが放つ、独特の臭いがあり、その雰囲気をさらに盛り上げたのは、照明だった。瞬くばかりする弱々しい蛍光燈、しかもかなり離れた間隔で取り付けられており、一本が切れたりすると、かなり長い間、闇の中を通らなければならない。
山という生命体に抱かれる‥というよりも、街の中に棲息する、据えた匂いを持った闇に捕まってしまうような、何かしら嫌な気分にさせられた記憶がある。
こんな気持ちを抱いていたから、一人で通る事は決してなかったし、友達と一緒でも、できるだけ違う道を迂回し、通らないようにしていた。
いつの頃か、このトンネルの内壁は修復され、明かりはオレンジ色のナトリウム燈になった。今までは、薄青白い蛍光燈の、か細い光で見ていた光景は、すべてをオレンジ色に染める、まばゆいばかりの明かりに変えられた。
その新しくも珍しい光景に吸い寄せられるように、少年達は、このトンネルを通るようになった。身に着けた青いジャンパーは黒に見え、色彩の感覚がすべてオレンジに押し潰されていく。塾の帰りに幾度となく通り、その色彩の麻痺を楽しんだ。
そんなナトリウム燈になって新しくなっても、このトンネルを通るのは、友達と一緒だった。が、ある時、急いでいたので一人で通る事になってしまった。
それは、東小学校側から入り、大原美術館に向いて出ようとする寸前だった。残像のような影が、出口に揺らめいたように見えた。その影のようなものは、卵型をしたトンネルの出口に、ゆらゆらと浮かび、漂っているように見えたのだ。とても嫌な気持ちが背中に走ったが、構わず突っ切った。
力一杯自転車のペダルを踏んだからか、首の辺りに息苦しさを感じる。走り抜けた夕暮れの闇の中、オレンジ色の光をバックにして、ゆらゆらと揺れる人影の残像が、まぶたの裏に焼付いた。
あの、だらんとしたような影は何だったのか。確かめにいくのが怖かった私は、ずっとそのままにしているのだ。
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by アルケミー・えんしゅう
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