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1 Aug, 2002
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Nr.018 いぼ地蔵
岡山県を縦に貫く三大河川の左寄り、つまりは一番西を流れる高梁川に沿って倉敷から海に向かう。
この土手道が、山陽本線と交わる辺りをかつては桑村と呼んだ。
角には、葡萄が植えられた畑があり、お地蔵様が立っていた。
盃を持って、“子の刻参り”をするのがしきたりで、お地蔵様の周りは5・60個が散乱していた。ずっと人の思いを受け止めてきたのが分かる盃…
風雨に晒されやっと原型が分かる物から、妙なツヤを放って輝いている新しい物もあった。それらが中心に立つお地蔵様の凄みを増していた。
お地蔵様の頭は、今風に言えばパンチパーマのような形状であり、そのせいか、「いぼ地蔵さま」と呼ばれていた。
しかしこの名には、実は違う理由があった。お地蔵様の表面は、もろくなっており、触るとボロボロと剥がれ落ちる。他愛なく落ちる感触が面白いので、子供はついその表皮を落とす悪戯を続ける。悪い事をしている…という罪の意識に怯えながら。
そして数日後、いぼ地蔵様を再び見ると、ボロボロと崩したハズの頭が、元通りにパンチパーマ状態に戻っている。子供は、その変化に驚いて逃げ去る。しかし本当の報いは、忘れた頃、ゆっくりと後からやってくる。
ある人は1ヶ月後。人によっては2・3年も経ってから、顔中に1ミリほどの小さな腫れ物が、びっしりとできる。
私の知る人は、2年経って急に顔に腫れ物ができた。後悔に涙を流しても一向に引かない。まじないに、茄子のヘタ、すいかの皮、きゅうりの種…
そんなものを神棚にお供えして手を合わせても、効果がない。
しかし、苦しみの日々を重ねていると、ある時、見た事もない老婆が現れたそうだ。
「娘さんや。イチジクの葉から滴る白い汁を付けてみなされ…」
「は?」
「もう あのお地蔵様に触れてはならんぞぇ…」
「…」
家に帰ってすぐ、言われる通りにやってみた。焼けるような痛みに飛び上がりながら、必死に続けたという。ついに顔は腫れ上がり、鬼の面のようになった。鏡を覗き込んでは、自分に涙を流した。
が、痛さが収まる時、腫れ物は跡形もなく消えてしまった。全快の爽やかさを喜ぶ心に、思いが過ぎった。
いきなり体を掻きむしられたお地蔵様も痛かったに違いない。その痛みは、イチジクの汁を顔に付けた時の、痛みと同じかも知れない…
そう感じた時、お地蔵様に謝りたい気持ちになり、再び会いに出かけた。
手を合わせて拝んだ後、お地蔵様の顔をみると、少し笑っているように見え、自分が許されたと悟ったという。
今はもう、高梁川の流れと山陽線の交点である桑村の葡萄畑は無くなった。自然の営みと、文明の進歩の交差点に立っていたお地蔵様も消えてしまった。誰かによって取り除かれたのだろうか、それとも自らが身を隠したのだろうか。
見守る必要がないほど、我々は進歩したのだろうか、それとも見守っても無駄だと感じたのだろうか。盃に溜まった水に映る、空の色が曇っていくのが、気になって空に昇られたのかも知れない。
どこからでも良い。
空を、川を、そして今の我々を見守っていて欲しい…
と願ってやまない。
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by アルケミー・えんしゅう
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