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15 May, 2001
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Nr.013 すいんきょ その2
阿智神社の祭を経験した倉敷の子供達の心には、「すいんきょ」という仮面が焼き付いている。
祭の度にその黄土色の焼印は、恐怖心を甦らせる。
そう、祭は猛獣の居るジャングルと同じ、一人では危険過ぎる。
かといって、その先にある甘美なエサを諦めるわけにはいかない。
だから決まって5〜6人が集まって出かけるようになる。
年齢差があっても、また普段はそれほど親しくなくても必要からユニットを組んだ。
この一団は、阿智神社に近づくに従って、緊張感をみなぎらせていく。
倉敷の中心部はモザイクのように道が入り組んでいるが、その路地に潜む、恐怖を知っているからだ。
誰ともなく、路地の手前になると、まるで偵察兵のように一人だけが団体から抜け出る。
そして、辻の手前から斜めに、そ〜っと覗き込む。
死角になっている路地の奥まで、確実に見通すのである。
何も居なければ、その偵察兵は、任務を完了して塊の中に戻る。
そしてまた次の路地が近づくと、誰かが抜け出るのだ。
あの時は、ちょうど自分が偵察に出た時だった。
秋の澄み切った空気、雲一つない空から照り付ける太陽は白壁に反射して、路地の影を余計に暗く見せていた。
蔵の壁の上側は、まぶしいばかりの白だが、下は黒、その陰に同化し、おぞましくも、うごめく物体を発見した。
初めての経験に、緊張は極度に高まった。
ルールともいうべき「発見!」の声を上げなければならない。
満身の力を込めて叫んだ。
「すいんきょ! らっきょ!! くそらっきょー!!!」
この一声が合図となって、ゲームがスタートする。
蔵の死角、黒の部分から飛び出すと、一瞬にして今まではなかった色彩が展開される。
唐草模様の上着、茶色のモモヒキ、赤か水色のタスキ。
そして、仮面は黄土色! 白と黒のモノトーンをバックにして、恐怖の仮面が弾け飛んで来る!
瞬間、蜘蛛の子を散らすように、ユニットは拡散する。
声を上げた者も、発し終わると、脱兎のごとく逃亡モードに入る。
また、当の「すいんきょ」も、獲物を狙う猛獣のようにダッシュしてくる。
逃げる! 逃げる! 力一杯逃げるのだが、声を出した者は、「すいんきょ」が一番に襲いかかってくる確率が高い。
だからなおさら、一生懸命逃げる。
が、相手は多分、高校生かそれ以上の年齢、追いかけられる我々は、小学校の3〜4年なのである。
その黄土色の仮面は、まさに弾け飛ぶような速度。
もしも自分が「すいんきょ」の追跡を引っ張ったまま、逃げ切ることができれば、仲間全員が助かる事にもなる。
だから、余計に一生懸命逃げる。
自分の為だけでは無いのだ。
背中から襲い来る恐怖、迫る足音。
澄み切った空気を切り裂く黄土色の仮面。
が、必死の努力もむなしく、黄土色の仮面は、ひたひたと背中に迫り、
利き腕側の射程距離に少年を捉える。
速さが違う。
親と共に出くわした時は、ポンッと優しく叩かれるだけだが、子供しか居ない時、そしてこのように「くそらっきょー」を
叫んだ時、彼らが振るう骨だけの団扇には、情け容赦は無い。
ビシッ!
という「すいんきょ」の一撃が、土壁の蔵と鼓膜に共振し、ビンッという変な音となって、響き渡るように聞こえた時、
頭には、耐え難い痛さを抱えることになる。
嗚呼、澄み切った秋空の、強いコントラストの光の中、蔵の陰から現れては消える恐怖。
見よ!うずくまった少年の横を黄土色の仮面は、いっさんにすべっていく。
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by アルケミー・えんしゅう
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