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20 Oct, 2000
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Nr.011 ひやさい
かつての倉敷に、人が集まってきたのはそれなりの理由がある。干拓によって出現した広い田を耕そうとした人もいただろう。しかし他の場所と違ってこの街は、工業や商業に携わる人間も多く求めた。
生産力を持たず、一人では生きられない人達は、隣人の体温を求めるように集まるしかなかった。寄り添いながらも、微妙な間隔を置いて住むようになり、倉敷の細胞が形成されていく。
必然的に生まれるのが、細い路地。寄り添いたい気持ちと、置かなければならない距離が微妙に見え隠れする。血管のように、細いけど隅まで行き渡る。時として太くなり、またある場所では分岐を繰り返しながら、急に行き止まることもある。
そんな路地を、倉敷の人は「ひやさい」と呼んだ。日当たりが少なく、日が浅い…からきていると何かの本に書かれていたが、定かではない。
いつでも影。365日、どんなに太陽の角度が大きくなっても、光が届かない地面には、コレステロールのように生活臭が付着する。飾ることのできない、勝手口の連続が、ひやさいからは見える。いや、勝手口の連続こそが創り上げるのに違いない。
雨が降れば、ぬかるむ地面は、瓦の破片を埋めて凌ぐ。行き先の分からない溝があちこちに流れ、台所で洗った茶碗から剥がされたゴハン粒が漂う。よどみ続ける哀愁と切なさは、街を愛する気持ちの裏側にへばり付く。
昼なお暗いこの陰は、得体の知れない気配を常に感じた。まして未体験のひやさいへの突入は、決死の覚悟だった。幅は80センチ以下、何か怖いものが居たら絶体絶命。
しかしなお、逃げる術がないのに突入した。求めていたのはスリルだけではない。誰も知らない場所は秘めたる宝、大きな財産。ましてや、A地点からB地点に辿り着く、少しでも短い道を発見しようものなら、新航路の発見者としてコロンブスやマゼランなみの扱いを受ける。
だからこそ、突入する。行き止まりだろうが、恐ろしげな犬が居ようが、それに勝る栄光が、薄暗さの向こう側にあったから。
恐ろしげなオヤジに、怒鳴られ、叱られ、頭を小突かれた事も数え切れない。
しかしいつも生暖かく、怪しげな入り口を開けて待っている。たった一時の名声を求め、少年達は身を踊らせていく。
ひやさい。倉敷の迷宮。時としてワープ航路を隠し持つ。方向・時間・空間の感覚を麻痺させていくラビリンス。言葉と共に消えていく、この有機生命体の存在を忘るる事なかれ。
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by アルケミー・えんしゅう
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