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20 Oct, 2000
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Nr.010 河子岩
濡れたゴムのような弾力ある感触、ヌメる肌の色はライムグリーン。反して硬い背中の甲羅、黄色く大きな口ばし。頭には皿を戴き、乾くと神通力を失う…。
私自身、河童の姿をいまだに見たことはないにもかかわらず、かなりリアルに知っている。いや、酒好き・女好き?という性質までも知っている。これは昔から日本全国に棲息していて、その存在が語り継がれたからかもしれないと思っている。
現在は死語となっているが、倉敷方言では河童の事を「ごうご」と呼ぶ。これは我々の郷土に河童が居たことの証だろう。果たして、この「河童」とは恐ろしい猛獣なのか、それともユーモラスな隣人なのか?
幼い頃、「川のそばで遊んでいると河童に引きずり込まれ、“シリコダマ”を抜かれる」と、よく親に言われた。このことから河童は 猛獣に似た、かなりの“悪”と印象づけ、恐れていた。ところが小学校6年生の時、遠くから来た転校生は、「河童に引きずり込まれるのは同じだが、食われるのはキモだ」と譲らない。
これは私の河童に対するアイデンティティーの崩壊につながるとばかりに食ってかかった。しかし彼は、「キモは肝臓だ。しかし、シリコダマとは何だ?」と逆に質問してきたのだ。私は答えに窮した。
何か該当するものは…と放課後の理科室で、気味の悪い人体模型の内臓を引っ張り出してみたけれど、当てはまるモノが無い。明日まで答えを待ってくれ、と家に帰って両親に尋ねてみたが、お茶を濁し、どうもハッキリしない。
結局は、単に子供を水に近づけまいとする方便であると、親が白状するに至って、この転校生に対して謝るコトになった。が、実際のところ彼も、河童、またキモを取られた死体でさえ見たことはないのである。だから、河童がそんな悪事を働くというのは嘘ではないのか、と意見が一致した。しかし河童が現存しないとは決して二人とも思わなかった。それは、何か不思議な親近感を持っていたからに他ならない。
倉敷で、河童が多く棲んでいたのは、天城街道を南下し、山陽ハイツ・岡山短大がある山の裏側(東側)の河子岩という集落である。昔、ここが海だった時、特に毎月初旬には河童が集まっていた。正確な場所は、内部が空洞…と噂のドンドン山の北、倉敷川支流の六間川の流域である。
ここに突き出る“ごうごいわ”という岩間から出てきては漁場を荒し回ったので、漁師達は困り果てたのである。イメージ的に河童は淡水の川や沼などに居ると感じていたのだが、倉敷の河童は海水に棲息し、漁師の上前をハねていたらしい。
そこで困った漁師達は、皆そろって恵比須宮に参詣し、酒や御供えを捧げ、豊漁を祈ったという。また老若男女が社殿に通夜をして歌謡・舞踊を捧げた。その成果あって河童達はどこかに去って、風は静まり、波穏やな海はいつも豊漁になった。
しかしその後、干拓が進み海面は埋め立てられ、住民達は漁業をやめて農家になった。もし河童が悪玉でないとしたら、そしてもし人語を解するとしたら、追い払われたことを何と言うだろうか。何しろ我々は、漁業の為に河童を追い払ったにもかかわらず、漁業を放棄して農業に転換してしまったのだから。
さらにその農業さえも、多くの人が放棄しようとしているのを見たら、彼らは何と言うだろうか…。
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by アルケミー・えんしゅう
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