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20 Oct, 2000
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Nr.008 種松山山麓 鞭木から山中へ
源氏の武将、佐々木盛綱は、海の浅瀬を巧みに渡り、先陣を切った。対岸で攻められるはずがないと多寡をくくっていた平家の武将たちは、浮き足立ち、次々と討ち取られていく。盛綱は乗り上げた場所に、鞭にしていた木を挿したので“鞭木”(むちぎ)と呼ばれるようになったという。敗れた平家の武者達は、広江方面に向け敗走する。
敗軍となった時点で、中立を装っていた寺社勢力が一転して敵となる可能性がでてくる。つまりそれまでメインに使っていた舟=海路が全く使えなくなった事を意味する。仕方なく山中を越えなければならないのだ。道などほとんど無い状態。しかも敗走軍。傷を負った将兵達は山中で迷い、力尽きバタバタと倒れていく。少しでも余力のある者は、負傷者を抱え山中を彷徨する。目的となる地がハッキリしない状態で、必死に樹々草木をかき分けて逃げ続ける。
遥か昔とはいえ、こんな事が種松山であったなんて知らない私の友人達が、同地で開催されたオリエンテーリングに参加した。チームは5人で男ばかり、余裕の参加だった。しかし彼らは迷った。
5つのポイントの内、3つ目を見つけようとして、コンパスの針を南西に追っていた時だった。さまよえる魂の方向と一致したのかどうかは判らない。しかし行けども行けども目標のポイントが無い。優勝を意識していただけに、5人の焦り方は異常で、その精神的な不安定さも良くなかったに違いない。
迷いながら、彼らは口々に、何でこんな小さな山で迷わねばならないのか…というボヤきを繰り返す。しかし不覚にも最後は、現在地を全く見失い、とにかく道へ出よう…という話になった。
そんな時、空模様まで怪しくなってきた。雨こそ降らないが、一瞬にして真っ暗になったのだ。山中の木陰はなお暗く、5人がはぐれてはいけないと、前の人の肩に両手をかけて連なり、行進することにした。数分間、その体勢で行進したのだが、やはり道にたどり着けない。一体どうなってるんだ…と、皆が口々に漏らす。
そんな時、最後尾の男が「肩に手があるような気がする」と、前に告げた。4番目の男は振り向きもせず、「お前が5人目だから後ろに人がいるはずはない。ボケたコトを言うな!」と取り合わない。いやそう言われても何かが肩に乗っているようだ…と、最後尾が繰り返す。4番目の男は、ばかばかしい…と、返答するのさえ止めてしまった。
5番目の男は、恐怖を抱えて、自分の右肩を見る。手が乗っている。左肩を見る。やはり手が乗っている。前を歩く人間の数を数える。1・2・3・4…自分が5人目である。前の4人は背を向けて、黙々と歩いていく。と、いう事は、この手の主は…と、首をゆっくりと、そして今までで最大の勇気をもって動かして、恐る恐る振り返った。
そこで彼が見たのは、自分の肩に両手を載せた、髪はザンバラとなり刀傷から血がにじむ甲冑鎧武者の、目をひき剥いた必死の形相。
5番目の男が声も出せず激しい握力で前の男の肩を握った為、4番目の男は振り向かざるを得なかった。それに引きずられるようにして、全員が振り向いた。
血まみれのザンバラ髪をはだけた甲冑武者達は、10人や20人ではない。途方もない長い列を作って自分達の後ろに続いている!5人は悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように走りだした。力一杯走り切った後、もう動けない…という状態で振り返ると、何も居なかった。目の前に、オリエンテーリングのチェック・ポイントが見えるだけ。あれだけ暗かった空も、いつのまにか明るくなっている。5人は揃って悪夢から覚めたのである。
種松山、鞭木から山中へ…平氏敗走の怨念が、時空を越えて創り出す亜空間がそこにはある。お気を付け召されよ。
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by アルケミー・えんしゅう
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