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20 Oct
, 2000
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Nr..002 あんこ婆ぁの立つ路地


 倉敷の名物は何?…人それぞれ推薦するものが違うだろうが、私が一番に挙げたいのは、やはり“むらすずめ”だ。それに続くのは“藤戸饅頭”、そして、一般大衆的な味として“えびす饅頭”がある。 “えびす饅頭”と呼ぶのは、多分当地だけであり、今川焼とか大判焼、あるいはドラ焼と言い換えた方が、分かり易いだろう。これはもと戎町と称する場所で製造・販売したから…と判断できるのだが、生粋の倉敷っ子はこの饅頭を“ふうまん”と呼ぶ。

 この名は“ふぅふぅ言いながら食べる”とか、“夫婦で楽しんで食べる”などと、その由来も判然としないまま、秋・冬・春の3シーズン、香ばしい匂いと温かさを共に楽しむのがダイゴミ。

 現在のように、甘さが味覚の単なる一要素として扱われたり、あるいはダイエットや成人病の敵として位置づけられるようになっては、その感覚も鈍ってしまうが、とかく我々は味覚の中で、“甘さ”を最高のモノとして求め続けてきたことを忘れてはならないだろう。

 “甘い”と書いて、フリガナをふれば、現代人は「あまい」とする。が、第二次世界大戦の終了後10年程度経つまでは、多くの人が「うまい」としていたのに違いないのだ。そう、甘さが溢れはじめたのは、人類の歴史の中の、ごく最近の、しかも僅かな期間であることを認識すれば、倉敷の名物に対する理解が深まろうというものである。

 さて前置きが長くなったが、今回紹介させて頂くのは、そんな“甘さ”にまつわるものだ。場所は、本町幹線(正式名称・倉敷中央通り)を倉敷駅を背にして南下、美観地区に入る通りを左折し、饅頭屋・みやげ物屋などを見ながら進むと、左手にある約3m程の幅の、南北に通る路地である。

 この道の突き当たりは、愛文舎という本屋であり、その手前左側角が、旅館の“N萬”である。この“N萬”の勝手口が、幅が約90cm、奥行き約50cmほどの窪みになっている。

 夕暮れ時、いわゆる“たそがれ時”に、この路地を通ってはならない。何も持ってなければ問題ない。しかし、甘い物…例えば、饅頭・アンパン・お菓子などを持って通ると、必ずこの“N萬”の勝手口の窪みに、老婆が立っているのが見えるという。

 なぜあんな所に婆ぁさんが立っているのかな? などと注意をそちらに向けようものなら、一瞬にして、お菓子ごと、頭から食べられてしまう…のだ。

 陽の当たらない、いかにもひなびた路地であるにも関わらず、時折、この小路を写生などしている人を見かける。何に惹かれてキャンバスを立てるのかは判らないが、不思議な雰囲気が漂っているのは間違いない。

 この話を教えてくれた私の友人は、30代後半となった今でもこの路地を通ろうとしない。大回りになっても元町幹線まで出るのだ。笑い飛ばしている私自身、好物のうぐいすパンとふうまんを自転車の前のカゴに入れた時は、この道は通らないようにしている。

by アルケミー・えんしゅう

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